十万分の一の偶然/松本清張/文春文庫2005/11/24

高速道路上で起こった多重事故を偶然撮影した写真が、新聞社の主催する報道写真の大賞を取った。この事故で恋人を亡くした教師が、その偶然さに疑問を持ち、調査を始める。警察の実況検分では「原因不明」となったが、生き残った人物の「赤い火の玉を見た」との証言を元に実験を重ねた教師は、撮影者と写真賞の審査委員に近づいていく。その写真は、本当に偶然に撮影されたものなのか?

「偶然とは必然である」という有名な言葉を持ち出すまでもなく、審査委員に唆された撮影者が、事故を誘発する「仕掛け」をしていたことが、徐々に暴かれていきます。読んでいる最中から想像は出来るんですけどね。しかし、ちょっと後味が悪いかな。

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_ じゅうのblog - 2014年01月17日 20時29分39秒

「松本清張」の長篇ミステリー作品『十万分の一の偶然』を読みました。
[十万分の一の偶然]

『失踪 ―松本清張初文庫化作品集〈1〉』、『月光 ―松本清張初文庫化作品集〈4〉』に続き「松本清張」作品です。

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夜間の東名高速道路下り線・沼津インターチェンジ近くのカーブで、自動車が次々に大破・炎上する、玉突き衝突事故が発生した。
アルミバン・トラックが急ブレーキをかけ、横転したことに始まったと推測されるも、事故直後の警察の現場検証では、ブレーキをかける原因となるような障害の痕跡は、まったく発見されなかった。
一方、大事故の瞬間を捉えた「山鹿恭介」の写真「激突」は、カメラの迫真力を発揮した作品として、A新聞社主催の「ニュース写真年間最高賞」を受賞、決定的瞬間の場面に撮影者が立ち会っていたことは奇蹟的、十万に一つの偶然と評された。
しかし、事故で婚約者「山内明子」を喪った「沼井正平」は、状況に不審を抱き、調査を開始する。
「十万分の一の偶然」は作られたものなのか。いったい、どのような方法で?
探索の末、「事故」の正体を突き止めたと思い、「正平」は行動に出るが…。

「十万分の一」と評されたそのシャッターチャンスは果たして本当に偶然なのか?
すぐれた作品を残したいというアマチュア・カメラマンのエゴイズムを軸に「作られた報道写真」問題を活写した社会派ミステリー。
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久しぶりに長篇ミステリーを読みたくなって本書を選択したのですが、、、

犯人や動機は読者が序盤から想定できる構成になっていて、ミステリー的な要素としては、その犯行をどのようにして実行したのかという、トリックを推理する部分に限られていたので、期待していた内容とは異なりましたが、人間模様の描き方は、さすが「松本清張」作品… という感じで、一気に読めた一冊でした。

概括すると、、、

婚約者を殺された男性「沼井正平」が、執念と行動力で真実を暴き、(証拠がなく法律で罰せないことから)個人的に復讐を実行する物語をドキュメンタリータッチに描いた作品… という感じでしたね。

「沼井正平」が綿密な調査と的確な推理で真実に近づき、偶然を装いながら犯人と接触し、徐々に犯人を追い詰める展開が面白かったですねぇ… 直接的な犯人だけでなく、間接的に犯人を犯行に駆り立てた人物への復讐も企てる展開は、報道写真や報道の在り方に対して警笛を唱えた作品なんだろうなぁ と感じました。



以下、主な登場人物です。

「沼井正平」
 東京・祐天寺に住む、元P大学経済学部助手。
 婚約者・山内明子の死を契機に大学を辞職。

「山鹿恭介」
 報道写真に強い関心を示すアマチュア・カメラマン。
 本職は、福寿生命保険藤沢支店の外務員。

「山内みよ子」
 山内明子の姉。
 職業は通訳で、明子の死を知りスイスから帰国。

「西田栄三」
 藤沢のアマチュア写真団体「湘南光影会」の中心メンバーの一人。

「米津安吉」
 事故の際、山内明子の後ろを走っていたライトバンの同乗者。

「古家庫之助」
 報道写真の権威として知られる大家。
 A新聞社の公募ニュース写真の審査委員長を務める。