暗礁/黒川博行/幻冬社2005/11/01

極道・桑原が運送会社による現職警察官の接待麻雀の代打ちに呼んだのが、建設コンサルタント・二宮。これをきっかけに、運送会社には億単位の暴力団対策の裏金の存在を知った桑原は、それを掠め取るために大阪、和歌山、奈良、京都、沖縄と飛び回ります。もちろん、いつものように二宮も巻き込まれていきます(笑)。

前回は北朝鮮、今回は関西、沖縄と、桑原のカネに対する執着は見事というほかありません。しかも、それがなんとも憎めない。また、いやだいやだと思いながらも、やっぱりカネ欲しさに桑原と行動を共にする二宮も、やっぱり同じ種類の人間なのでしょう。運送会社と警察が、どれだけベッタリなのかも良く分かって、とても面白く読めました。

しかし、この著者の描く極道は、なぜこんなに突き抜けたような「明るさ」があるのでしょうか? いつも不思議に思っています。

アンボス・ムンドス/桐野夏生/文藝春秋2005/11/06

「アンボス・ムンドス」。両方の世界という名のキューバのホテルに不倫旅行に行った教頭と女性教諭。帰国後に待っていたのは、受け持っていたクラスの女子児童の事故死だった。この世には二つの世界がある。表と裏、右と左、そして天国と地獄。

表題の他、6編が収められた短編集です。どいつもこいつも底意地が悪く、しかも主人公達でさえ、老若男女問わず嫉み、妬みの固まりのような人間ばかり。作者が見せてくれたのは「もう一つの世界」。「もう一つ」と言いながらも、それは現実社会とは紙一重だったりします。

自転車日記2005/11/08

日中に走るのなら海岸沿いなのですが、夜は暗いしちょっとヤバいので、コースを変えています。その夜用のコースの一つを今日走ってきました。そこを走るのは、およそ3ヶ月ぶり。信号のタイミングや道路にぽっかりと開いている穴の位置などをすっかり忘れていて、オタオタしながらの走行でした。

そのコースは主に幕張メッセを中心とした埋め立て地なのですが、企業誘致などが進んでいないようで、まだまだ広大な空き地が広がっています。しかし今日走ったコース沿いに、目新しい建物が2、3出来ていました。一つは家具の専門店(『東京インテリア』となってました)らしきもの。そして、物流倉庫とトラックターミナル。どちらも驚くほど大きく、専門店などは電気は点いているものの売り物が全く並んでいないので、その大きさが余計に感じられました。開業したら、さっそく行ってみるつもりです。

近代の奈落/宮崎学/解放出版社2005/11/10

「突破者」宮崎学が被差別部落各地を歩き、話を聞いたレポートです。被差別部落といっても性格も違えば規模の大小もあり、また、部落内に別の階層が存在するのは、当然のこととは言え、気付かないものです。名称が一つであれば、存在も一種類であると思いこむのは危険ですね。それから著者が出自を著している章もあります。その点で力作だと思うのですが、ただ、解放出版社系の雑誌に連載されていたものなので、ある程度の予備知識がないと、精読は難しいかもしれません。アナ・ボル対立なんて最後まで説明がありませんでしたからね。そのへんが少し残念です。

冒険の国/桐野夏生/新潮文庫2005/11/12

ディズニーランド近くに住む終焉した親子、外部からの流入家族、自殺したかつての恋人を引きずっている女性、ビルを持っているのに入院しても親族から放置される老人。弾かれた人々は、決して元に戻らない。

著者が1988年、デビュー前にある文学賞に応募した作品を文庫化したものです。結局その賞を取ることは出来ませんでしたが、処女作にはその後の作品を構成する全て詰まっている、の言葉通りの内容です。著者本人にすれば赤面すら覚えるかもしれませんが、現在のファンにとって見れば、非常に興味深い一冊でしょう。

十二年目の映像/帚木蓬生/新潮文庫2005/11/16

学生運動の末期、東大時計台の攻防を内部から撮影したフィルムがあった。それを入手したテレビ局員は、生放送中の調整室を占拠し、フィルムを流す…。

うーん、正直言って、それがどうしたのかって感じです。そのフィルムをドラマのリアリティを上げるために入手しようとしたスタッフや、学生運動の残党連中がそれを横取りしようとする思惑など、私には少しもピンと来ませんでした。体験者しか解らない事柄というのは確かにあるのでしょうけど、それらを書き連ねられてもなあ…。

自転車日記2005/11/20

カミさんの自転車の調子がどうもよくないってことで、新しいのを買うことにしました。私の自転車を購入したスポーツ専門店に行ってみると、驚いたことに自転車売り場が無くなっています。今月始めにはあったんだけどなあ。店員に聞いてみると、改装ではなくて完全撤退だとか。なんじゃ、そりゃあ。

渋々他の専門店に行きました。この店舗では「自転車20%割引セール」をやっていました。おおっ、ラッキー、と思ったのも束の間、壁に貼られているポスターを読んでみると「自転車取り扱いは今年末まで」等と書いてあるではありませんか。

結局、自転車を買うことは出来ましたが、これだけ自転車人口が増えているように感じられる今、スポーツ専門店が自転車販売から撤退するのは何故でしょう。私のような門外漢には伺い知ることが出来ない理由があるとは思いますが、なんだか納得できないなあ。早急にメンテを頼める店を見つけないと。

十万分の一の偶然/松本清張/文春文庫2005/11/24

高速道路上で起こった多重事故を偶然撮影した写真が、新聞社の主催する報道写真の大賞を取った。この事故で恋人を亡くした教師が、その偶然さに疑問を持ち、調査を始める。警察の実況検分では「原因不明」となったが、生き残った人物の「赤い火の玉を見た」との証言を元に実験を重ねた教師は、撮影者と写真賞の審査委員に近づいていく。その写真は、本当に偶然に撮影されたものなのか?

「偶然とは必然である」という有名な言葉を持ち出すまでもなく、審査委員に唆された撮影者が、事故を誘発する「仕掛け」をしていたことが、徐々に暴かれていきます。読んでいる最中から想像は出来るんですけどね。しかし、ちょっと後味が悪いかな。

自転車日記2005/11/26

注目すべき裁判がありました。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051125-00000277-kyodo-soci

「携帯電話に気を取られた」となっていますが、実はメールを打っていたとのこと。自転車乗りからすれば大変厳しい裁判結果です。しかし、自転車だってクルマと同じくらい危険な乗り物であることは肝に銘ずる必要があります。ましてやメールを打ちながらなんて言語道断。被害者になることは避けられないことがありますが、せめて、こちらが加害者になることのないようにしなければ。

しかし、通行区分や最高速度など、自転車関連の行政も中途半端ですが、これは人々の自転車に関する意識も中途半端であることの反映でしょうね。青島前東京都知事が都市博の中止を表明した際、都議会議員から「じゃ、あの土地はどうするんだ」との質問がありました。前知事は「サイクリングロードにする(本当に、前知事にはその考えがあったらしい)」と答えたところ、議員達からは失笑が漏れていました。私はこの失笑に、日本人の自転車に対する意識を見たような気がしています。

閉鎖病棟/帚木蓬生/新潮文庫2005/11/29

様々な過去を背負った人々が、精神を病んでいるという理由で入院している病院。中には、何故?と疑問を持ってしまう患者もいるが、皆明るく生きています。しかし、あることがきっかけとなり、殺人事件が起きます。犯罪者となった患者を慕う人々が懸命に弁護するラストは、素晴らしいです。

患者や医師を含めてかなり多く人物が登場しますが、著者は一人として「その他」を作りません。しかも唯一の「悪人」に対しても、最後には救いを描いています。これは、物語を紡ぐ著者の矜持なのだろうと思います。