張込み/松本清張/新潮文庫2005/07/07

私の大好きな作家氏が唯一誉めていた「原作を持つ日本映画」は、この表題作である「張込み」です(作家氏は映画の仕事もしているし、言及しているのは映画の方であります、為念)。ある指名手配犯の立ち回り先として浮かんだのが、今は判を押したような平凡な家庭を持つ主婦である元恋人の家。その家を辛抱強く張り込む刑事はある日、その主婦がいつもと違う時間に、いつもと違う様子で出掛けていくのを尾行します。果たして、主婦が投宿した先には指名手配犯が現れます。その時刑事が取った行動は・・・。 表題作の他に有名な「鬼畜」が収録されています。この作品を映画化したものは見ているのですが、これほどの短編とは思いませんでした。

コメント

トラックバック

_ じゅうのblog - 2014年07月14日 23時54分00秒

「松本清張」の短篇集『張込み 傑作短編集〔五〕』を読みました。
[張込み 傑作短編集〔五〕]

『聞かなかった場所』、『或る「小倉日記」伝 傑作短編集〔一〕』に続き「松本清張」作品ですね。

-----story-------------
推理小説の第1集。
殺人犯を張込み中の刑事の眼に映った平凡な主婦の秘められた過去と、刑事の主婦に対する思いやりを描いて、著者の推理小説の出発点と目される『張込み』。
判決が確定した者に対しては、後に不利な事実が出ても裁判のやり直しはしない“一事不再理”という刑法の条文にヒントを得た『一年半待て』。
ほかに『声』 『鬼畜』 『カルネアデスの舟板』など、全8編を収録する。
-----------------------

以下の8篇が収録されていますが、、、

 ■張込み
 ■顔
 ■声
 ■地方紙を買う女
 ■鬼畜
 ■一年半待て
 ■投影
 ■カルネアデスの舟板

『張込み』、『顔』、『声』、『地方紙を買う女』の4篇は短篇集『顔・白い闇』で既読、『投影』は短篇集『危険な斜面』で既読だったので、初めて読んだのは『鬼畜』、『一年半待て』、『カルネアデスの舟板』の3篇でしたね。

ちなみに、『張込み』、『声(映画タイトル:影なき声)』、『地方紙を買う女(映画タイトル:危険な女)』、『鬼畜』の4作品は映像化作品を観たことがありました。

それでも、好みの作品が集まっていたので退屈せずに読めましたね。
(詳細は忘れている部分も多いし… )



『張込み』は、僅か30ページ足らずの作品なんですが、深みのある作品、、、

生活に疲れた女が、犯罪を犯した昔の恋人と再会し、忘れていた(隠していた?)女としての心に火を点けるところが、憎いほど巧く描かれています。


『顔』は、心理描写が巧みな作品、、、

1度見ただけの顔なんて覚えてないですよねぇ。

それに気付いた犯人が安心して大胆な行動に出ますが、そこから綻びが… 顔そのものよりも、仕草であったり、同じ情景であったりという方が記憶が蘇ることもありますよね。


『声』は、声を見分ける能力が仇になってしまう悲しい作品、、、

石炭を使ったトリックが秀逸でしたね。


『地方紙を買う女』は、戦争で夫を失った女の哀しい物語、、、

地方紙を購入した動機が連載小説… 不審に思った作家の推理が見事ですね。

でも、もしかしたら作家の推理は誤っていたのかも… と思わせるエンディングが大好きです。


『鬼畜』は、「ビートたけし」の演技の素晴らしさを感じた作品、、、

テレビドラマで観たのですが、小説のイメージそのままでしたね… 妻のお菊はドラマでは、少し優しくなっていたかな。

男と女の愛憎、愛人の残した子どもへの憎しみ… 人間って、ここまで冷徹になれるもんなんですよね。怖い…


『一年半待て』は、どこかで観たことのなるような作品、、、

もしかしたら、テレビドラマ化されていたのを観たことあるのかも… 夫殺しの原因が、夫の暴力、飲酒(泥酔)、浮気という判断で情状酌量されますが、その裏には一年半に及ぶ計画的な行動が。

怖いけど、面白かった。


『投影』は、「松本清張」作品には珍しくスッキリとしたエンディングで後味の良い作品、、、

帰宅の方向を誤らせるトリックは、現実味が薄い感じがしますが… トラブルから東京の新聞社を辞職した主人公が、地方都市に移り、再就職した地方新聞社での経験により人間的に成長する姿が活き活きと描かれていますね。


『カルネアデスの舟板』は、二人がつかまると沈んでしまう板に、二人の人間がつかまろうして、生き残るために一方を水死させた場合に罪に問われなかったという寓話を扱った物語、、、

邪魔になった恩師を、情婦を使って陥れようとするが… その行為から男女の気持ちに微妙なズレが生じ、計画は破綻してしまう。



既読作品が多かったけど、面白かったなぁ… さすが「松本清張」作品ですね。