真実の言葉はいつも短い/鴻上尚史/光文社2005/10/15

著者が今まで書いてきたエッセイを抜粋してまとめたものです。二十代前半から三十代後半という広い範囲のものなんですが、書き方の違いが現れてはいるものの、考え自体は首尾一貫しているのが印象的です。私は全て読んできたつもりだったのですが、やはり「抜け」はありました。ありがたいです。

さて、その「抜け」の中に興味深い一文がありました。それは「表出」と「表現」は違うというものです。「表出」は何の推敲もなしに自己の感情を表し、自身がカタルシスを得るもの。そして「表現」は、相手に理解させ、感動させ、動かしたかどうかというものです。前者は視野に「自分自身」しかなく、後者は「相手」がいると認識しているかどうかの違いといってよいでしょう。著者はこの差異を演劇論(評)とインターネットの関係の上で言及していますが、私もなんとなく考えていたことでした。私は、特にネット上における匿名での書き込みは、主に「嫉妬」と「甘え」が底辺にあると感じていましたが、それが書き込まれている文章や言葉に対して、具体的にどのような形で埋め込まれているのかまでは理解できませんでした。しかし、著者が書いた、意見の表明や感情の発露にも「表出」と「表現」があるのだという指摘に深く納得した次第です(尚、この両者のどちらが上だとか高尚かなどと考えるのは無意味であることも付け加えておきます)。

今後、少なくとも私は、他人がどうであろうと、自分のカタルシスの為に感情を「表出」させてしまうことを避けようと思います。実社会でもネットでも。

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