わが師 折口信夫/加藤守雄/朝日文庫2005/09/22

国学、民俗学、神道学・・・現在批判もあるものの、折口信夫の業績はまだまだ刮目すべきものです。そんな巨人の私生活を、極めて近くから見ていた、そして「被害」にあった書生の一人である著者が記した作品です。折口が同性愛者、かつ女性を不浄な生物と考えていたことは有名です。が、それは「知識」として私が知っているだけであって、関係を迫られた弟子の一人である著者の描写非常に生々しい。弟子は、頭脳、嗜好、そして肉体までも、師と同化せねばならんとの折口の考えには、嫌悪感さえ覚えます。折口は、私が出た大学の大先輩でもあり、折口の臨終を見届けた書生の一人(今年も歌会始の召人でしたな)は、私の演習と卒論を見ていただいた教授の師匠に当たる人なので、ごく薄い縁があるのですが、それでも「身近にいなくて良かった」と感じてしまいます(笑)。でも未だに受け継がれている「古代とは時間を言うのではない」との言葉は、今でも私の頭の中にあります。

余談ですが、折口の師匠である柳田国男は、折口の学問へのアプローチ方法を、半ば蔑んでいた面があったようです。柳田は証拠の集積を本筋とし、折口は自らの直感を信じていました(かなり乱暴な言い方です)。両者はお互いの業績を認めながらも、心中は反発していたと聞きます。そんな雰囲気を著者が感じないワケはなかったと思うのですが、そこは文字通りの「遠慮」であったのでしょう。