バケツ/北島行徳/文藝春秋2005/09/09

世間にはびこる(敢えて)障害者に対する感想はどのようなものでしょうか。曰く、かわいそうだ、健気に生きている、純粋な心を持っている・・・。前作「無敵のハンディキャップ」において、そんな世間の思いこみに飛び膝蹴りをかました著者は、健常者も障害者も在籍するプロレス団体「ドッグレッグス」を主宰しています。プロレスなど興味が無く、鼻で笑ってしまう私でしたが、前作を読んで、下北沢まで「ドッグレッグス」を見に行き、すっかりファンになってしまいました。いやー、衝撃でしたよ。健常者レスラーでもある著者vs四肢不自由者のガチンコ勝負や、寝たきり小児マヒ同士の30分一本勝負なんてのが組まれていました。ちなみに後者の勝負は、両者とも「うー」とか「あー」と言ってマットに寝ころんでいるだけで、いつも引き分けでした。そんな著者が書いた「小説」です。 腸も気も弱いマッチョの主人公が、就職した施設で智恵遅れで盗癖のある「バケツ」とあだ名された少年と出会います。家族からも施設からも見放された「バケツ」と同居を始めたマッチョは、生活費を稼ぐために日焼けサロン、無認可保育園、老人向け介護サービスを始めます。この仕事がキツイキツイ。しかし、支えなければと思っていた「バケツ」に自分が支えられていたことに気付いたマッチョは、ますます仕事に熱を上げていきます。いやー、良いですよ、これは。教科書的な「共生」とか「思いやり」なんてのは、じつは健常者の思い上がりであって、他者との関係を築く上では、障害があるとか健常ってのは全くの無意味ってことに気付かされます。ホントの「やさしさ」って、こういうことを言うのだと思いますよ。「無敵のハンディキャップ」と併せて、強くオススメします。