夏の旅人/森 詠/中公文庫2006/06/11

 太平洋戦争中の1943/44/45年、三年続けてヨーロッパアルプスに登っていた日本人がいたことを、著者は資料中に発見する。名前は五代次郎。彼はなぜ、そんな時期に山に登っていたのか? 五代の日記を入手した著者の彼を追う旅が始まる。

 大正、昭和の怒濤の時代に青春を送った五代は、自らの信念に基づく行動のため、様々な困難に突き当たります。壁は父親であったり、学校や軍部、そして当時の社会です。その友人達を含む群像劇を見ているようなこの作品は、五代の視線を通じて当時の社会状況を浮き彫りにします。五代は日本のみならず、パリへ移住後、スペイン内戦に従事します。その内戦は遠いものでありましたが、間接的に日本に深く関係するものでした。これも五代の目を通して描かれています。

 この作品は入手困難ではありますが、オススメです。是非。

コメント

_ 青葉ときお ― 2006年09月03日 19時12分31秒

はじめまして。私は十年ほど前「夏の旅人」を文庫本で読みました。
同作は新聞広告で知りましたが、面白そうだったので買ったのです。
暗黒の時代に直面した青年たちの葛藤や抵抗が赤裸々に
描かれていたのが衝撃的でした。戦前の歴史を学ぶ上でも
参考になる作品だと思いました。

残念ながら文庫本は知人に譲ってしまいましたが、もし機会があれば
また読みたいと思います。ちなみにこちらへは、関東大震災直後の
虐殺事件関連の検索でたどり着きました。「夏の旅人」にも
大震災虐殺が描かれていたのを思い出したのです。

_ 岩田 ― 2006年09月03日 23時02分02秒

青葉ときおさん
コメントをありがとうございます。

「夏の旅人」は、購入時に見かけただけで、その後古書店でも見かけません。これほどの作品がもったいないなあと感じています。森詠氏の作品の中でも異色ということもありますし。

こちらへは大震災時の虐殺事件の検索で辿り着かれたとのこと。この作品も、戦前の描写がありましたね。また、先日亡くなってしまった吉村昭さんの「関東大震災」にも、事件に触れた箇所がありました。検索結果はいかがだったでしょうか。

それでは。

_ 青葉ときお ― 2006年09月04日 00時00分23秒

岩田さん、ご返答ありがとうございます。

私も拙いながらブログを持っており、今月一日の「防災の日」に
ちなんだエントリーを書く上で、大震災直後の虐殺に触れようと思い
検索しました。おかげさまで、多くのサイトを参考にさせていただきました。
なお、吉村氏の作品はまだ読んでいません。

検索の過程で、以前に虐殺関連の描写を何かの小説で読んだことを思い出し、
ずっと考えてそれが「夏の旅人」という題名だったと気づいたのです。
で「夏の旅人」を検索にかけたところ、こちらにたどり着いたのです。
私の最初のコメントでは少し言葉足らずでした。申しわけありません。

不躾ながら、関連エントリーをトラックバックさせていただきます。

_ 岩田 ― 2006年09月05日 22時30分55秒

青葉ときおさん>

そうでした、9月1日は「防災の日」でしたね。関東大震災は遠い「歴史」となってしまいましたが、自然災害はいつまでも続きます。ならば、「その後」にやってくるかもしれない「人災」をどう避けるかを、私たちは歴史から学ばなければと思います。そういった意味で「関東大震災後の虐殺事件」は、語り継がねばならないことだと考えています。

そういえば、私が名古屋に住んでいたとき、自宅の目の前に甘粕大尉の墓がありました。

トラックバック

_ 気まぐれホーム0番線 - 2006年09月04日 00時06分25秒

 昨年十月のダイヤ改正で、京都と南宮崎を結ぶ寝台特急「彗星」が廃止された。廃止直前の数年間は京都−長崎間の「あかつき」と併結して走っていた。
 相手を失った「あかつき」はダイヤ改正以降、京都−熊本間の「なは」