夏の旅人/森 詠/中公文庫2006/06/11

 太平洋戦争中の1943/44/45年、三年続けてヨーロッパアルプスに登っていた日本人がいたことを、著者は資料中に発見する。名前は五代次郎。彼はなぜ、そんな時期に山に登っていたのか? 五代の日記を入手した著者の彼を追う旅が始まる。

 大正、昭和の怒濤の時代に青春を送った五代は、自らの信念に基づく行動のため、様々な困難に突き当たります。壁は父親であったり、学校や軍部、そして当時の社会です。その友人達を含む群像劇を見ているようなこの作品は、五代の視線を通じて当時の社会状況を浮き彫りにします。五代は日本のみならず、パリへ移住後、スペイン内戦に従事します。その内戦は遠いものでありましたが、間接的に日本に深く関係するものでした。これも五代の目を通して描かれています。

 この作品は入手困難ではありますが、オススメです。是非。