逃亡/帚木蓬生/新潮文庫2006/08/11

 1945年8月15日。香港で諜報活動をしていた憲兵・守田軍曹は反日感情が増すことに身の危険を感じ、除隊し逃亡を決意する。身分や本名を隠し、戦勝国の憲兵狩りを逃れ、困難の末帰国する。しかし、GHQの意を受けた政府に戦犯の烙印を押され、警察からの追っ手が迫り、束の間の家族との生活を捨て、再度逃亡を図る。果てには何が待つのか?

 追われながら守田は、国のために戦った自分が何故国に追われるのか、これは裏切りではないかと自問しますが、逃亡中胸をよぎる拷問死させたイギリスのスパイや香港の二重スパイの顔が、彼を煩悶させます。このまま捕まり裁きを受けるべきか、それとも逃亡を続けるのか。これは先の戦争に少しでも加担し、BC級戦犯として拘束された人物全てに当てはまる苦悩なのでしょう。

 今年も「終戦記念日」がやってきます。戦犯、戦争責任、戦後処理を考える「温性の高い人々」全てに読んで欲しい作品です。この物語には当時の日本人全てが登場していると言っても過言ではありませんから、答えを出せる要素は揃っています。