河畔に標なく/船戸与一/集英社2006/04/05

ミャンマー(ビルマ)の山岳地帯に墜落したヘリは200万ドルを積んでいた。生存者はその金を持って密林を抜けようとする。

同じ頃、ミャンマーの刑務所から脱獄した政治犯がいた。それを追いかける副所長。またミャンマーでホテルを開業しようとするも軍から賄賂を要求されている日本人や、姦通した妻を殺害したイスラム教徒、反政府勢力の指揮者が、見えない糸に引っ張られ、ミャンマー政府の力の及ばない山岳地帯へ向かう。

最初は、登場人物が多すぎ混乱しましたが、半ばからはすっかり頭の中で整理され、最後までイッキ読みです。200万ドルはどうなったか、そして「死ななかった人物」は誰か?(笑) オススメします。是非。

「悪所」の民俗誌/沖浦和光/文春新書2006/04/08

「悪所」とは人に享楽を提供する場所。その成り立ちを<色><遊><賎>から読み解いていく好著です。必要、かつエネルギーの集散場所であるにも関わらず、いや、だからこそ時の権力から距離的にも遠ざけられた「悪所」は、その「聖性」ゆえ生き残ってきました。

<色>は遊女町、<遊>は芝居町、<賤>は被差別部落。この三者は、来歴を忘れられながらも今日まで、密接に絡み合いながら私たちの「周縁」に存在します。それを現存する古文書や史実、絵画から検証しようとする試みには、新鮮な驚きすら感じます。読後、盛り場を見る目が変わってくることでしょう。

制服捜査/佐々木譲/新潮社2006/04/12

 地元との癒着を恐れる上層部の意向で、数年で転勤させられる北海道警の警察官たち。川久保も札幌での私服刑事から道東の志茂別駐在所へ転勤でやってきた。大きな事件や災害もない田舎の町であったが、それは表面上のこと。事件がないのではなく、事件を作らない町だったのだ。

 五編の連作短編集です。駐在さんが主人公といえば田舎ののんびりとした話を想像するかもしれませんが、この小説の内容は全く違います。地元のボスや有力者が「犯人を作らない」ことを前提にしている町なのです。よそものである川久保巡査は、次第に町の雰囲気を嗅ぎ取り、彼らに煙たがられながらも治安を守っていきます。

 誰がなんと言おうと、私はこの小説が気に入りました。内容も良いのですが、著者の書く文体がいいのです。特に最初の「逸脱」のラスト3行。痺れます。

神のふたつの貌/貫井徳郎/文春文庫2006/04/15

 牧師の家庭に生まれた早乙女少年はカエルの手足を潰し、痛みを想像した。彼には痛覚が無かったのだ。母や、その後の妻も男性と共にふしだらとも思える死を迎え、少年も自ら殺人に手を染める。全ては「救い」と神への問いかけであったが、神は沈黙したままであった。

 うーん、なんだかなあ。著者独特の倒述には驚くのですが、いかんせん「神」だもんなあ。困ったなあ。

ハードボイルド・エッグ/荻原浩/双葉文庫2006/04/18

 ここ最近、大ブレークした著者の1999年の作品です。タイトルからも分かるように中身は一応「ハードボイルド」。主人公は一人称の探偵である「私」。もちろん「背が高いのね」「僕のせいじゃない」が出てくるのですが、著者の目論見は「コメディ」。しかし、それが成功しているかどうかは疑問。清水辰夫の二の舞って感じで、すっごくユルイです。いや、誉めていませんよ(笑)。

月夜の魚/吉村昭/中公文庫2006/04/21

 表題を含む11編の短編集です。ゲイの娼婦の自宅を尋ね、半生を取材する作家が登場したり、元妻の再婚相手が元夫に面談を申し込み、「二度と会わない」と念を押されるが、その対応に反発した元夫の密かな復讐を描いたりなど、いままで私が読んだものとひと味違った雰囲気の短編が収められています。著者のまた違った面が見えて楽しいです。

今どきの「常識」/香山リカ/岩波新書2006/04/25

 声がデカくて威勢の良い連中がいる。特にネット上に多いな。「平和・平等なんてキレイゴトを言うな」「現実を見ろ」「理想など言っている場合か?」「オマエが痛い目にあっても、それは自己責任だ」「日本の文句を言うヤツは出て行け」等々。やれやれって感じだ。

 彼らの目指す社会は、彼らを幸せにするのだろうか?   あ、そんなことはどうでもいいか(笑)。

編集長を出せ!/岡留安則/ソフトバンク2006/04/29

 「噂の真相」が休刊してから2年ですね。創刊3年後くらいからの読者であった私は、今でも毎月10日になると、無念さがつのります。文藝春秋は、あんなに平積みなのに(笑)。

 「噂の真相」はホントに面白かった。それだけにトラブルも多かったと思います。本書は、編集長であった著者自身が、そのトラブルのほんの一部を紹介しています。有名なトラブル(右翼に殴り込まれて刺された事件)や小さな抗議など、今でも読んでいてドキドキします(笑)。

 帯にも書いてありますが、この本はクレームに対するトラブルシューティングにもなります。

 是非、ご一読を。と、言っておこうか(笑)。