光と影の誘惑/貫井徳郎/集英社文庫2006/02/03

すっかりハマりました、貫井徳郎(笑)。

四つの短編集です。 誘拐された子供の代償は身代金ではなく、更なる誘拐であった「長く孤独な誘拐」。動物園のペンギン舎の前で死んでいた男は、他殺なのか自殺なのか? 「二十四羽の目撃者」。競馬場で知り合った男が持ちかけたのは現金輸送車を襲うこと。準備は万全だったのだが…「光と影の誘惑」。癌で逝った母の秘密は、父と、自分を含めた家族の秘密だった「我が母の教えたまいし歌」。

たった四つの短編でこれだけの幅を示せるのはスゴイと思いますよ。どれがどれとは言えませんが、バカミスあり、叙述トリックあり、どんでん返しあり…。まだまだ行きますよ(笑)。

ザ・チーム/井上夢人/集英社2006/02/06

盲目のニセ霊能者と彼女を支える仲間たち。支えるとは、相談を依頼するクライアントを徹底して調査すること。合法調査あり犯罪あり。そして、隠された事件も顔を表す…。

コピーに惹かれて購入してしまいましたが、一読して後悔。なんか中途半端なんですよ。彼らは何故ニセ霊能者を支えるのかという根本的な部分が理解できないし、犯罪的な調査をしながらも、全く「逡巡」がないんですね。それがなきゃ、単なる調査マシーンじゃないか。そんなもん読みたくないって。

天使の屍/貫井徳郎/角川文庫2006/02/08

中学二年の息子が飛び降り自殺を図る。動機を知ろうとする父親が息子の教師や友人に話を聞き始めると、その友人達が次々と自殺していく。『子供の論理』に翻弄される父親が掴んだ真相とは少年達の不可解さだった。

粗筋をこんな風に書いてしまうと単なる父親の真相追求ですが、この作品ではきちんと父親の行動の動機付けが用意されています。そこが上手いなあと思います。家族の問題というとなんだか矮小な印象を拭えませんが、自殺の真相と合わせるせると『子供の論理』がしっかりと立ち上がって来ます。これもイイですね。

カスハガの世界/みうらじゅん/ちくま文庫2006/02/10

観光地の土産物の代表選手である絵はがき。一枚ずつ売っていることはなく、ほとんどが10枚一組。そこがポイント。その10枚の中に必ず『??』というものが含まれている。それがカスの絵はがき。略してカスハガ。製作者を思わず問いつめたくなる逸品が紹介されています。大笑いできますが、さて絵はがきとしてはどうなんだろうという疑問は野暮ってもの。触れないのが大人ってもんです。

汚名/多島斗志之/新潮社2006/02/14

ドイツ語を叔母に教えてもらっていた高校生のわたしは、貧しく陰鬱な叔母の雰囲気に馴染めなかったが、父との約束を破るわけにいかず、従姉妹と共に通っていた。しかし叔母が通り魔に襲われ負傷したのをきっかけに足が遠のき、しばらく後、叔母は病を得て亡くなってしまう。数十年後、作家として講演を行った地で、わたしは叔母の元クラスメートに出会い、女学生だった叔母が撮影されたフィルムを見た。そこに映っていた叔母は、ドイツ語を教えていた当時と違い、初々しく、華やかで、健康であった。叔母に何が起きたのか。

「わたし」が時代を遡って叔母の過去を探っていくと、そこに立ちはだかるのは戦争、特効警察、そして大きなスパイ事件でした。読み始めたときは単なる私小説かと思いましたが、途中からキッチリとしたミステリになっており、最後には相応の結末が用意されています。

また良い作家に巡り会いました。

アフリカの蹄/帚木蓬生/講談社文庫2006/02/19

南アフリカに留学していた日本人医師・作田は、絶滅したはずの天然痘が黒人達に蔓延していることに気付く。上司である白人医師達から恫喝とも取れる警告を無視し黒人社会へ飛び込み、黒人医師と治療に当たる作田は、この天然痘が、黒人殲滅のために南ア極右勢力が巻き散らかした結果と知る。黒人解放勢力と協力する作田は、天然痘ワクチンの入手、生成に成功するのか。

世界初の心臓移植が行われたのは南アフリカでした。レシピエントは白人、ドナーは黒人。この「アフリカの蹄」を読むと、なぜ心臓移植技術が南アで進んでいたのかが良く分かります。

南アのアパルトヘイト政策、そして経済をバックに名誉白人という称号に増長する日本人の描写にウンザリするほど(それは著者の力量なのです。誤解無きよう)ですが、作田がワクチン入手に奔走する箇所や、希望すら見えてくるラストに感動します。この著者らしい物語であると感じました。オススメです。

職業欄はエスパー/森達也/講談社文庫2006/02/22

私は超能力を始めとする「超常現象」や幽霊や祟りなどの「心霊現象」などを全く信じていません。そんなものをドキュメンタリー作家である著者がどのように著すのかに興味を持ち、この本を読んでみました。

「信じる」「信じない」の二元論を排除するというスタンスには共感を持ちました。しかし、私がいつも持っている疑問、すなわち「『超能力』があったとして、それがどうした」に対する回答として「『引力』があったとして、それがどうした、と同様の疑問である」とする著者の強引さに少々不快さを持ちました。

同じ視点でオウムを題材とした映画「A」を撮影していたとしたら、不快を通り越して恐怖ですね。

絵はがきにされた少年/藤原章夫/集英社2006/02/25

数年間、新聞社のアフリカ特派員として取材したアフリカの市井の人々。アフリカといってもその概念は広く、アジア以上の広汎さを持ちます。それに再び気付かされたことは良かった。しかし、いつも感じるのですが、新聞記者の書く文章というのは、どうしてこうも読みにくいのだろう。私にとっては、翻訳物とともに読書上の鬼門であります。